12/14/2010

筆を味方にしよう 

某大手企業から電話をもらう。 

わが社の社長に、書の手ほどきをしてもらいたい。 数日後に本の出版が決まり、その時サインをしなくてはならないので、なんとか頼む、といわれた。 

世襲社長の三代目は、普通守りに入る、と言われるのだが、あにはからんや彼は就任以来、業績を伸ばし続け、不況知らずというツワモノ。 まだ40代の若さだ。 

サラブレッドの若社長、仕事はバリバリ、留学体験あり、英語、フランス語を自在に操るバイリンガルだが、何故か文字だけは苦手で、相当の「悪筆」なのだという。 

「あの、そのような大役は、書道家の先生の方が。。。私には。。。」と何度も云ったのだが、頼みますよ、の一点張り。多分、急遽来てくれる書家がいなかったに違いない。 偉い先生は、忙しいのだ。

名前と、座右の銘をお願いします、と言われてたけど、古代文字で書かせるわけにもいかず、かといって、普通の書家とはちょっと差異を出したく、、、 

まず、図書館へ行って、武将の名筆をじっくり鑑賞。 その後夜まで、行書、草書、隷書、楷書、そして、古代文字で、 書きまくった、社長の名前と座右の銘。 あの、墓石を書いた時と同じく、部屋中に和紙が貼られていった。 深夜に、印を彫った。

そして翌日、硯や筆、和紙、印泥など一式ひきずっていく 。ビルのエレベーターが開くと、お出迎えのスタッフが並んでいて、「先生、こちらです」と、社長室へと案内してくれる。ガラス張りの、社長室。 

社員たちが「書家って、あの人?若いじゃん!」という感じで、興味津津に見ている。与えられた時間は、1時間。15分は、古代文字のことを話した。残り、45分。私は全く駄目なんですよ、と言い続ける社長。まず、書いてもらう。 

。。。。。。。。。 

予想以上だった。

ならば。いつものように一本線を引くところからスタート。気分は、組員の扱いになっていた。 教えながら、どんどんイメージが広がっていく。
書の枠なんて、取っ払いましょ、行書のリズムを、今風にしましょ、そうそう、よくなった! 書いて、どんどん書いて、楽しく書いて!! 

(省略)

「久々、集中したなぁ~。書は楽しんで書けばいいんだね。」
素敵なサインができた。 

秘書を始め、みな、心底ホッとした顔をしていた。落款を捺すと、もっと素敵になって、私もホッとした。
社長はとても素敵な人だった。これからもこの企業は、成功していくだろうなと思った。才能ある人に、悪筆が多いような気がする。

下手なのではなく、個性的なのだと、解釈すればいい。そして筆は、どんな悪筆も、味にしてくれる。

一つづつ、何かをクリアーすると、一つ発見がもらえる。
楽しいなぁ~。

 

Leave a Reply