11/06/2010

墓石の文字を依頼され 

「田舎からお墓を持ってくることになり、新しくつくるのですが、ぜひ、文字を書いていただけないでしょうか。四十九日までにもう時間がないので、出来れば今週中にお願いしたいんです」。

実は依頼者はデザイナーで、書もたしなまれるのだが、いざ書いてみたら、どうしてもバランスが悪い。でも、石屋さんに丸投げは、デザイナーとして許せない。

そして書かれたそうなのだが、やはり代々残って行くものへの重責があり、どうしようか、と悩んでいるとき、私と出会ってしまったらしい。

しかし私は、書家と言うより、古代文字アートの作家。「絵みたいな文字なんですよ、書と言うより、むしろアート性が強くて、 古代からの祈りが込められたもので・・・なので、普通の書家に頼まれた方がよろしいかと」。
が、アート性と言うところに反応してしまった。そう、彼は大手代理店のデザイナーだから。

電話では収拾付かないので、古代文字で書いたものを送ることにした。写メで。時間がない時に、本当に便利だなぁ。

いくつか書いているうちに、はて、実際の墓石は、どんな文字だったっけ、と思いだした。墓石の文字。 ○○家之墓。いままで見ていたようで、見ていなかったなぁ~。そうなると、いてもたってもいられず、谷中の墓地へ。
ほー、似ているようでいて、みんなちょっとずつ違うのねぇ。楷書、隷書、その払いが微妙に違ったり、あれこれ、本当ビックリ!

そして本屋へ。世の中、本当にいろいろな書籍があるなぁ~、有名文化人のお墓めぐり、なる写真付きの本があった。しかし。古代文字の墓石なんて、一つもない。

う~ん、なら、私らしさを出そうじゃないの。

依頼者に電話し、ご両親の思い出話をうかがう。日本で1,2のゼロ戦乗りで、名誉市民で、温厚でいつも笑顔だった父。
お嬢様で、家が好きで、手先が器用だった、やさしい母。
どんどんイメージが、声が、伝わってきた。

まる2日間、書いて書いて、書きまくった。楷書風、隷書風、篆書風、古代文字金文。部屋といわず、階段に、物干しに、廊下に、いたるところに「○○家之墓」と書かれた和紙が下げられていた。

翌日、さわやかなミッドタウンのテラスで、選ばれた2点を広げる。安心する隷書風と、最後に一気に書き上げた、甲骨文字。そして、墓守りの図象。

デザイナーには甲骨文字がストレートだった。しかし、御親戚のお年寄りには、刺激的すぎるか・・。さわやかな秋の日差しの中で悶々と悩んだ挙句、決断した。「甲骨文字と、墓守りで、いきます!」

先日、無事納骨が終わったと、メールをいただいた。

お墓に着いた瞬間、ご住職から 「いい字ですね、いい御墓です」と言われました。親戚お歳寄りの方々からも口ぐちにほめてくれました。石屋さんからも「かっこいいすねぇ!」と言われました。

墓守のマークも洒落てて素敵に見えました。また来たくなる墓に仕上がっていました。一度、みにきてください!

よかったよかった。
ご両親の笑顔が見えるようです。

 

 

Leave a Reply